来年度の国の予算編成に関して、驚きの情報が報じられています。
「児童手当の特例給付を廃止する」とな。
絶賛少子高齢化爆進中の日本で、子育て支援施策の削減案が出ようとは考えてもみませんでした。
まったく何の冗談でしょうか。
「子どもを増やさないといけないのに、児童手当を削減する。」というのは、例えるなら、「ダイエットをするために、ご飯をおかわりする」的な感じでしょうか。
まったく何の冗談でしょうか。(2回目)
でも、これは冗談でもなんでもありません。
まじなんです。というか、割と普通です。たぶん、制度設計をしている公務員は、ちょー真面目に考えて作ったのだと思います。
こんなギャグのような制度改正案が、真面目な公務員から出されるのが日本の行政です。
今日は、なぜそんなことが起こるのかを書いていきます。
児童手当の改正案
まず、今回廃止されようとしている特例給付とは、高額所得者のための制度です。
現在の制度では、夫婦のどちらかが年収800万円以上稼ぐ人しか関係ありません。
改正案では、所得制限の範囲を世帯年収にするとか、金額を引き下げるとか言ってますが、いうて、一定以上の高額所得者のみに影響することに変わりはありません。
簡単に言うと、今回の改正は、金持ちだけに影響する制度改正ということです。
国の考えは、「金持ちへの給付金を、もっと重要な子育て支援の事業に回す。」ということだと思います。
国は、その具体案にも言及してて、特例給付の削減で捻出した財源で、保育所を整備するなど、「待機児童対策に終止符を打つ」としています。
要するに、今回の児童手当の制度改正案をざっくり言うと、「金持ちへの手当をなくして、その財源で保育園を作る。」ということです。
日本の行政の賢さと限界
どうでしょうか。
「それなら別にいいかも」と思う人も多いのではないでしょうか?
日本の制度改正はいつもこんな感じです。
いつも「うん、まあいいか。」くらいの制度改正が行われます。
公務員は賢い
そうなんです。
公務員は賢いのです。
特に、国のキャリア官僚は頭がいいのです。
日本の役所は、「多くの人が納得できる制度を作る」「大きな反発が起きないようにする」ことに関して、いつもいい感じの制度設計をします。
さすがは東大卒の集合体です。安定感抜群です。
でも、実は、この安定感こそが日本の行政最大の問題点だったりします。
何かを行うために、何かをやめる
なぜ問題なのか説明します。
当たり前ですが、新しい施策には財源(お金)が必要です。
どこかから財源を捻出しないといけません。
財源の捻出方法は2つ。家計と同じです。
「収入を増やす」 or [支出を減らす]の二択です。
昨年10月の消費税増税は、社会保障経費増加のための財源を捻出しようとしたもので、二択のうち、「収入を増やす」を選んだ事例です。
しかし、これは特殊な事例で、増税には国民の激しい反発がつきものです。
いつも増税(収入を増やす)ができるわけではありません。そんなことしてたら暴動が起こります。
ですから、原則的には、何か新しい施策を行うための方法は後者しかありません。
何かを行うためには、何かをやめる必要があるのです。
私は、ここに問題点の肝があると思っているわけですが、これ自体は悪いことではありません。
むしろ当然のことです。
スクラップ&ビルドは必要です。
問題点は、「何かと何かを比べる範囲」です。
日本の役所は、「何かを行うために、何かをやめる。」を考える範囲が狭いのです。
よく言われる「縦割り」というやつです。
まさに今回の児童手当の制度改正が典型例です。
「少子化対策のための施策は、優先順位の低い少子化対策の経費を削って行う。」ことになってしまっているのです。
問題の理由
なぜこれが問題なのかというと、施策別の優先順位付けができないからです。
家庭で考えると分かりやすいと思います。
子供が大学生になって仕送りが必要になったとします。
学費と家賃と生活費(小遣い)合わせて、月15万円必要になりました。
どうやって15万円を捻出しますか?
- 主婦だった母親がパートに出る。
- 大学生の子供にバイトさせる。
- 父親の飲み代を減らす。
- 母親の美容院の回数を減らす。
方法はたくさんあります。
家計全体を考えて、優先順位をつけ、順位が低いものを削減すると思います。
子供への仕送りのために、父親が飲み会を控えることは当たり前です。
でも、役所はこれができません。
「子供の学費と仕送りの金は、子供にかかる経費を減らして捻出する。」となってしまいます。
学費のために、
- 子供の小遣いを減らす、
- 子供の洋服代をケチる、
- 子供の食べる物をケチる、
- とてつもなく安いアパートに住ます、
こんなことをやっているのが日本の役所です。
同じカテゴリーの中だけでスクラップ&ビルドをやっているのです。
誰が考えても削減対象は父親の飲み代なのに、それができないのです。
本来は、施策横断的に判断する必要があります。
例えば、
「高齢者への年金を減らして、児童手当を増額する。」
「高速道路の工事を遅らせて、保育園を作る。」
「医者の給料を減らして、保育士の給料を上げる。」
こうやって、系統の違うものすべてを同じテーブルに並べて考えるべきです。
でも、役所はそれができませんし、やりません。
縦割りの闇は深いのです。
今回の特例給付の廃止案はその最たるものです。
優先順位をつけられる人を選べ
今回、削減案が出ている児童手当の特例給付。
高額所得者に対する給付なので、少子化対策というカテゴリーの中では、優先順位が低いことは間違いありません。
でも、全体で考えると、今の日本において少子化対策という施策は、優先順位の最高位です。
なんとか子供を増やさないと国がなくなってしまいます。マジで。
保育園を増やすために、児童手当の特例給付を削減するのではなく、別の施策を削減して財源を捻出するべきです。
個人的には、年金や医療・介護など高齢者関係の経費を削って、子育て支援の財源とするべきだと考えています。
でも、これをやると間違いなく大反発が起こります。
だから、安定感を重視する公務員にはできません。
普通の政治家にもできないでしょう。
解決できるのは、ごく一部の気合の入った政治家のみです。
日本には、「施策別に優先順位をつけられる政治家」が必要なのです。
そして、国民は、そんな政治家を選ばなければなりません。
選挙のとき、候補者に聞いてみてください。
「それをやるために、何をやめて財源を捻出するのですか?」と。
この質問に対して、ハッキリ答えられる人が今の時代に必要な政治家です。
細かい数字の根拠は要りません。
施策別の優先順位を持っているかどうかが大切です。
子育てか、高齢者か、福祉か、教育か、防衛か、建設事業か、農業振興か、観光振興か…
「全部大切です。すべて一生懸命やります。」
ほとんどの政治家はこうやって言うでしょう。
また、それは間違いでもありません。
全部大切です。
でも、より大切なのはどれなのか?
これからの日本は、それを選択していかなければなりません。
人口減少と、高齢化と、国家財政の状況。
これらを考えると、選択と集中で、もっと尖った施策を行うべきです。
一気に子育て支援策に財源を集中投入するようなことが大切です。
子育て支援として、保育園を増やすために、児童手当を減額する。
実際に、こんなギャグみたいなことが行われようとしているのです。
初めに書いたように、日本の役所は安定感抜群です。
ディフェンス力は最強でしょう。
でも、今の日本に必要なのはオフェンスです。
攻めて攻めて、大きく社会を変えなければなりません。